アメリカの名門、マサチューセッツ工科大学(MIT)。意外なことにMITでは音楽大学レベルの音楽教育が行われています。
工科大学と言えばAIなど最先端のテクノロジーを連想します.
工科大学でなぜ関連性の薄い分野の音楽を? 一般教養として人気があるのかな? と興味を持ち、MITの音楽教育に関する本を手に取りました。
MITでの音楽教育プログラムが始まって60年以上。時代と共に芸術科目も増え、この10年で音楽科目の履修生は50%も増え、今や全学生約4,000人の内、実に1,500人が音楽を学んでいるそうです。音楽を教養、副専攻として学ぶ学生が大半ですが、中にはダブルメジャーとして音楽を主専攻とする学生もいます。入学以前に音楽経験のあった人もいれば、全く未経験の人もいます。
「多くのエンジニアが創造的な問題解決者となるにはアートや人文学での経験が必要である」という理念に基づくMITでの音楽プログラム。テクノロジーや科学が直面する問題の多くは、人間性への理解や関心の不足など、エンジニア以外の領域で起きていることが関わっていると考えられているのです。
具体的にはどのような音楽教育プログラムがあるのでしょうか?
人類の歩みを音楽と共にたどる「西洋音楽史」、人間の感情表現を掘下げる「オペラ」、室内楽やオーケストラでの演奏も学ぶ「楽器演奏」、音楽の文法とも言える和声学を学び、自らも作曲する「音楽理論」「作曲」など。クラシックにとどまらず、「ビートルズ」「ワールドミュージック」、工科大学らしく、音楽とエンジニアリングを結びつける「音楽テクノロジー」など幅広いジャンルに渡っています。
ただ座って講義を聞くだけでなく、自分でテーマを選んでエッセイを書く、音楽を分析してプレゼンテーションを行う、コンサートを聴いてレポートを提出、弦楽四重奏曲を作曲してプロの演奏家に演奏してもらうコンサートを開く… 自主性、創造性が求められます。学生同士でのディスカッション、お互いの作品を聴き合うなど、新たな発想や気付きを得て「創る」という能力を育てていくのです。
こうした音楽授業はハーバード大学、イェール大学やスタンフォード大学を始め、他の多くの大学でも行われています。
新型コロナの影響でMITでもオンライン授業に切り替えられていますが、ベートーヴェンの交響曲第7番のリモート録音するという取り組みもありました。不安な状況ですが、新しいテクノロジーと結びついた音楽文化の逞しさを感じ、勇気をもらえました。
音楽に触れるということは、単に楽器が弾けたり鑑賞して楽しむだけではなく、どんな分野にも通用する本質的な学びをもたらしてくれるのではないでしょうか。
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